本研究の3年目の総括の年度であるが、3年間で得られた知見はわずかなものでしかない。基本的には20世紀の演技論とその実践をリアリズム系の演技論と、反リアリズム系の演技論の2つの系脈に整理することはできたように思う。本年度も論文として成果を公開することができたが、それぞれの演技論の奥行きの深さを今更のように感じさせられた。基本的に、スタニスラフスキイの「システム」とメイエルホリドのビオメハニカの相反する演技論の検討に終始したが、それぞれの演技論の本質の一端は把握することができた。さらに、それらの検討を通して演技論の演劇学上の射程についても整理することができたのは功績としてあげられる。演技の身体が20世紀において演じられる主体としてだけではなく、哲学思想上のテキストと見なされるようになったこと、劇の解釈をする際に演技論が解読の格子になりうること、また劇作品はそれぞれの理想の演技論を前提としていること、さらには演技論とその実践を含むリハーサル・メソッドは上演を考える際に有効な手がかりとなること、その結果、演技論は演劇という営みを貫く主たる動機軸になることが判明した。これらの課題については今後の研究の進展を待たねばならないが、来年度以降にも更に枠組みを拡大して科学研究費を申請しており、今後の研究はそれらの助成によって成果を上げることができると思われる。
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