本研究は3年間の研究であり、十分な成果発表もできた。ただ、総括において、約1年を要するために、そして、十分展開し得なかった問題を認識し、次の段階への展望を開くために、昨年度には最終的な成果報告書を提出しなかった。今年度は、日本を含むアジア地域における近代演技論の展開を射程に入れる必要があることを痛感し、今年度から来年度にかけては、この問題に焦点を当てている。また、基本的にロシア演劇における20世紀前半期の演技論を調査しえたにとどまっているのも今後に課題を残している。近現代演技論は、ロシアの20世紀に典型的に見られるとはいうものの、その世界への展開についてはそれほどに追跡探求できなかったことは悔やまれるが、これは今後の課題としたい。本研究では、少なくとも、リアリズム系の演技論と非リアリズム系の演技論の双方をコントラストをつけて理解し、新たな知見を生むことが出来た点は、成果としてある。演技身体が演じられる主体としてあるだけではなく、思想上のテキストとみなされていること、劇の解釈に演技論が効果的な解読格子になること、また劇作品はそれぞれ個別の演技論を前提としていること、さらに演技論を含むリハーサル・メソッドは上演を考える上で有効な手がかりになること。これらの点は、本研究で明らかにできた点であり、さらに深い洞察が求められる点でもある。これらについても、今後の課題としたい。
|