本年度は最終年度にあたるため、報告書の構成を念頭において研究を深めた。報告書は以下のような章立てと内容になる予定である。第1章「マニエラ」と「リフォルマ」の狭間で。ここでは、16世紀後半いおける対抗宗教改革の高まりが、『芸術家列伝』の第1版と第2版にいかなる影を落としているか、また晩年の作品の様式や図像にどう作用しているかを考察した。第2章ヴァザーリの眼差し。この章では、過去の絵を観察し評価するヴァザーリの眼差しが、従来言われてきたような、ユマニスム思想やアカデミー理論とのつながりにおいてばかりでなく、もっと自由で、ときに感情的・身体的なリアクションを示したり、またときには絵の意外な細部にこだわって記述するヴァザーリのもうひとつの側面に焦点が当てられる。第3章「だが君、それをどう我々の意味に当てはめるつもりかね」。この章では、神話画の「意味」とは何か、いつどこでそれはつくられるのか、誰にとっての「意味」なのかといった問題が、「イコノロジー」の批判的再考を射程に入れつつ考察される。第4章ヴァザーリと「奇矯(ビザッロ)」なるもの。ヴァザーリはしばしば「奇矯」という用語で画家や作品を批評するが、それはいったい何を意味していたのかをテクストに即して具体的に考察した。第5章ヴァザーリの沈黙。この章ではヴァザーリがあえて口にしていない画家や作品やジャンルについて考察することで批評家・歴史家としてのヴァザーリを逆照射した。
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