本研究は、美術史学の「父」とも言うべきイタリア16世紀の芸術家にして著作家ジョルジョ・ヴァザーリを、主に文献学的な観点から考察しようとしたものである。そのため、本研究では主に次の5点を明らかにしようと試みた。まず、代表的著作である『芸術家列伝』の第一版(1550年)と第二版(1568年)を比較検討し、両版のあいだの相違を、特に当時の宗教的状況との関係において考察した。次に、ヴァザーリの芸術観や歴史観に対する批判者たちの言説を、とりわけジャン・パオロ・ロマッツォの著作である『絵画の神殿のイデア』(1590年)を中心に跡づけた。三番目に、「奇矯(ビザッロ)」というヴァザーリの批評言語に注目し、いかなる画家やいかなる様式が「奇矯」とか風変わりとみなされているかを、具体的に『列伝』の記述と作品の分析によって跡づけた。四番目に、ヴァザーリにおける「マニエラ」概念や、「人工的なもの(アルティフィチアーレ)」と「自然なもの(ナトゥラーレ)」の関係という問題を、同時代の他のテクストや作品との比較において考察した。そして最後に、ヴァザーリの著作『議論集』と、ヴァザーリが手掛けたパラッツオ・ヴェッキオの室内装飾との関係を、図像学とは異なる受容美学的な観点から考察した。これらの成果はそれぞれ各章として科学研究費補助金成果報告書に収録されている。
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