平成14年度は、現在、京都国立博物館に寄託されている京都・曇華院蔵の「彦火々出見尊絵巻」模本の調査をおこない、さらに、京都国立博物館に所蔵されるカラーおよびモノクロ写真を、曇華院の許可を得て入手した。曇華院本は全4巻。第1巻は明通寺本の第1、2巻に、第2巻は明通寺本の第3、4巻に、第3巻は明通寺本の第5巻に、第4巻は明通寺本の第6に相当する。模写の経緯や筆者は不明であるが、画風から、江戸時代後期の住吉派の絵師による模本と考えられる。丁寧に描かれたモチーフのかたち、建物や衣の彩色や文様は明通寺本と非常に近く、詞書の字詰の行どりも同一であることから、おそらく、明通寺本を転写したものと推測される。 一方、東京国立博物館には、狩野養信、中信、立信による全3巻の模本が保管されている。墨線による簡略な模本ながら、最も優れた第1巻に描かれたモチーフのかたちや衣の文様、ことばによって指定された彩色が明通寺本とほぼ同じであることから、祖本である住吉家伝来本と明通寺本の図様がほぼ同一であつたと推測される。住吉家伝来本と狩野種泰が写した明通寺本の図様が、流派をこえて一致するということは、両者がともに原本を忠実に写した模本であるからと想定される。模本の調査をおこなうことにより、明通寺本が原本の図様を復原するうえで重要な作品であることを、あらためて確認することができた。 明通寺本については、論文「描かれた出産-「彦火々出見尊絵巻」の制作意図を読み解く」を『生育儀礼の歴史と文化-子どもとジェンダー-』(服藤早苗・小嶋菜温子編、森話社、平成15年3月)に発表した。曇華院本と東京国立博物館本の比較は、別稿にて発表する予定である。
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