昨年度に引き続き、平成12年度は各地に散在する江戸時代動物画作品の所在調査を行い写真資料やデータを集め、また関連文献に関しても収集することができた。その作業上で明らかになってきたことは、本研究を開始した当初に予想していた以上に、江戸時代動物画は、東洋画における伝統的な花鳥画の文脈とは異なった「独自の」意味性を有したものが数多くあり、その意味を解き明かしていくことは江戸時代花鳥画研究にとって新たな側面を開くことになることを確信した。しかしながら、この意味を解読してゆく作業では、すでに現代では失われてしまった「言説」や「ことば」また「慣習」「風俗」といったものを探りだし、再生してみる試みが必要となり、思いのほかに手間取っている。現段階では、そうした文学や民俗学に関わる部分での調査・研究も美術史的な作業と同様に重要であると考えられので、同時並行で進めて行きたいと考えている。このような研究の途上ではあるが、本年はその途中経過として論文「〈月の兎〉の図像と思考(上)」を『学習院女子大学紀要』第3号に発表した。同論文では、江戸時代に生まれた日本独自のウサギをめぐる絵画や図像に関して総合的に明らかにし、特に中世以来の謡曲や和歌にもとづく絵画形成に関して論じた。しかし同論文の全体については、許可された紙数内では論じきれなかったので平成13年度中にあらためて「〈月の兎〉の図像と思考(下)」として発表の予定である。さらにウサギというテーマだけにとどまらず、犬・猿・鷹・虫といったものについても本研究では同様に明らかにして行きたいと考えており、部分的ではあるが現在それらに関しても執筆を開始し、2002年中の刊行をめざし『江戸の動物表象』(仮題)と題した著書として発表したいと考えている。そこで平成13年度は本研究課題の最終年度となるが、実務的は作品資料の写真資料の収集やデータ処理を完成させるとともに、その成果としての論文を出来るだけたくさん執筆することに力を注ぎたいと考えている。
|