平成11年度は、年度後半からの研究開始となったため、幕府との関係が想定される重要作例のリストアップ及び文献史料調査をまず行い、そのうえで作例についての現地調査は基礎的な確認調査と一部作例についての本格調査を行い、基礎的データの作成とその整理を行った。対象作例は主に鎌倉時代前半の作例を中心とした。主な調査作例は次の通りである:神奈川・江島神社弁才天坐像、神奈川・常楽寺釈迦如来坐像、千葉・石堂寺千手観音坐像、宮崎・王楽寺薬師三尊像、宮崎・万福寺阿弥陀三尊像、宮崎・薬師寺薬師三尊像、熊本・明導寺阿弥陀三尊像、ほか。 次に、新知見などを中心に本年度の成果を記す。まず、神奈川・常楽寺釈迦如来坐像について、調査による知見に加えて文献面からの検討も加えた。その結果、従来南北朝時代もしくは室町時代の作とされてきたこの像は、作風・構造から鎌倉時代前期も一二一○〜一二二○年代頃の作とみられた。一方、本像の伝来する地は平安末期以来摂関家である九条家領として伝えられたが、承久の乱により関東御領となり、実質的には北条氏の支配下となったことが知られ、これが本像造立の契機と推定されるに至った。本像については作例研究の一つとして、裏面の通り本年八月刊行予定の清水眞澄編『造形と文化』(雄山閣)中に論文発表する予定である。神奈川・江島神社弁才天坐像、千葉・石堂寺千手観音坐像は、いずれも十三世紀前半の作風・構造を示すと認められ、伝来地からみて鎌倉幕府もしくは御家人の関与による造像とみられる。今後さらに検討の予定である。宮崎市付近、及び宮崎県南西部から熊本県南東部にかけての地域は、上記のような作例が比較的密に存在し、これらについても今後本格調査により検討を重ねる必要が認められた。来年度では本格調査の作例を多くし、並行して個別作例研究を進めたい。
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