ジュウシマツのオスを被験体とし、同種メスの動画刺激と音声刺激の複合刺激・単独刺激に対するオスの歌行動の発現度合いを測定する実験を行った。その結果、複合刺激がもっとも強い行動解発力をもった。聴覚刺激のみでは歌行動はほとんど誘発されなかった。視覚刺激のみでもオスの歌行動は解発されるが、複合刺激には及ばぬ持続時間であった。 動画刺激をベースとして、上半分または下半分を提示する場合、画像を90度または180度(上下反転)させて提示する場合、近縁他種を刺激とする場合について、それぞれ被験体オスが発現する歌行動の持続時間を測定すると、歌を発現するためには、(1)同種の画像であること、(2)頭部があること、(3)正立していることが必要であることがわかった。すなわち、ジュウシマツのオスにとっての歌行動のレリーサーは正しく布置された同種の頭部であるといえよう。 この研究の成果から派生した研究として、補完の現象を調べる実験を進めている。腹部のみで頭部がない刺激に対してジュウシマツのオスは歌行動を発現しないが、欠落した頭部を隠蔽するような刺激を加えると、再び歌行動を誘発することができる。つまり、実際には存在しない頭部刺激を被験体が自発的に補って、そのイメージに対して歌行動を誘発したと考えられる。このデータは、鳥類における補完の現象が極めて直裁に示せた数少ない例である。 以上と並行して、ジュウシマツのメスを被験体とし、同種オスの動画刺激と音声刺激の複合・単独刺激を作成し、メスの交尾誘発反応を指標として刺激複合の効果を探る実験を進めている。
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