研究概要 |
本課題の最終年度にあたる今年度は、2つの研究方略により視聴覚統合の過程を調べた。まず、脳における遺伝子発現を指標として、統合の様式を調べた。ジュウシマツやキンカチョウのオスは、歌と踊りによりメスに求愛する。液晶テレビとスピーカーを用いて音声と画像を独立に提示することで、これらの刺激に応答する遺伝子発現様式を調べた。刺激後の脳を取り出し、zenk遺伝子が作るタンパク質を、抗体により標識した。 結果、視覚のみだとNCL領域に、聴覚のみだとNCMとcHV領域に、多くの遺伝子発現がみられた。視聴覚を同時に提示した際は、NCL領域における発現量が視覚のみの場合より少なくなった。NCMとcHVにおいては、視聴覚複合刺激は聴覚刺激のみの場合と同レベルの遺伝子を発現させた。すなわち、視聴覚情報が統合される領域は、大脳においてはNCLであると考えることができる。 次に、オペラント条件づけを用いて、視聴覚複合刺激の弁別訓練を行った。雌雄のジュウシマツに、2羽のオスの求愛の風景をみせ、Go-NoGo手続きで弁別させた。1羽のオスの画像をV1,音声をA1とし、他のオスの画像をV2、音声をA2とした。すなわち、V1+A1でGo、V2+A2でNoGoとして訓練した。訓練完了後、V1+A2、V2+A1およびそれぞれの単独刺激をプローブとして提示した。結果、メスはすべて視覚次元に基づいた弁別をしたが、オスは視覚と聴覚双方に依存することがわかった。同様な実験を図形と純音の人工刺激を用いて行うと、雌雄ともに画像にのみ依存した弁別を行った。 これらの結果から、視聴覚複合刺激は大脳NCL領域で処理されるが、人工刺激と自然刺激は異なる処理を受けることが示唆された。
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