研究概要 |
一般に,空間内にある刺激を表現するための座標系は,観察者から見て奥行き方面を正中面(sagittal plane),これと直交する面を前額面(frontal plane)として記述される。通常の明所条件下では,物理的に等価な距離であっても,正中面に提示された標的間の距離は前額面に提示された標的の距離よりも過小評価されることが知られている(空間の異方性)。では,標的への視覚誘導性行為(blind walking)はこの歪んだ知覚表現に依存しているのか。これを検討することが本研究の目的である。 実験では,正中面(4-12m)に第1標的,これと直交する前額面あるいは正中面に沿って第2標的(1.0,1.5,2.0m)を置き,前額面に提示された2つの標的間の距離と正中面の距離とを知覚的にマッチングさせる実験および第1・2標的へblind walkさせる実験を行った。この際,第2標的が前額面にある場合は正中面方向に移動させ,正中面の標的には前額面方向に移動させるようにした。分析の結果,先行研究と同様,空間の異方性が確認されたが,第2標的への運動行動は先行研究とは異なり,奥行き方向の過小視の影響を受けた。この結果は,刺激提示と運動による再現の座標系が非対応であったことに起因すると思われる。つまり自己中心的位置は相対的距離とは独立しており,変換が困難であることを意味する。また,運動による定位行動は自己中心的手がかりのみに依存しているのではなく,相対的な知覚的手がかりの影響も受けることが明らかとなった。運動系はどちらの準拠枠にもアクセス可能であることが示唆された。
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