研究概要 |
通常の明所視条件下では,物理的に等距離であっても,奥行き方向に提示された標的間の距離は前額面に提示された距離よりも過小評価されるということが知られている(空間の異方性)。しかしながら,これらの標的を観察した後に,その標的に目隠しで歩行を行うとこれを正確に実行できる(Loomis et al.,1992)。この結果は,知覚系と運動系とが異なるシステムに基づいているという仮説の行動学的例証であると考えられてきた(Milner & Goodale,1995)が,知覚系が2距離間の比較を行っているのに対して,運動系では位置情報を元に標的に向かって歩行していたと解釈することも可能である。そこで本実験では,Loomis et al.(1992)とほぼ同様の実験状況を設定し,提示された2標的間の提示方向にそった歩行を行ってもらう条件と,提示方向とは一致しない方向に距離を再生してもらう条件を設けた。後者の条件では,標的が存在しない仮想上の位置に歩行することを意味する。知覚的マッチングの結果,奥行き方向は前額面よりも一貫して過小視され,奥行き距離が増加するにつれてその傾向が強まるという結果が得られた。この結果は先行研究と一致するものであるが,2標的の仰角に対して前額面の距離(視角に換算)をプロットすると,奥行き提示条件でも前額面提示条件でも線形関係が見られた。また,目隠し歩行の結果は,第1標的までの歩行距離は先行研究同様4-12mの距離ではかなり正確であった。第1-第2標的間の歩行に関しては,刺激を奥行き方に提示すると奥行きにも前額面にも同様の距離を示したが,前額面提示条件の場合,奥行き方向への距離は前額面の距離を有意にオーバーシュートしていた。これらの結果は,egocentricな準拠枠の効率と知覚系・運動系の各準拠枠へのアクセスのしやすさにプライオリティがあるという点から考察された。
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