研究概要 |
本研究では,健常児,自閉症児,および精神遅滞児を対象として,心の理論と言語発達や実行機能の記憶との発達的な関係を検討した。平成11年度には健常児の,12年度には自閉症児と精神遅滞児の誤信念理解と文理解およびメタ言語的意識を検討し,群間で比較した。13年度には健常児を対象に,誤信念および知識の情報源の理解と,実行機能の出典記憶,順序記憶,作業記憶,および伝統的再生記憶とを検討した。 まず健常児の誤信念理解,文理解,および音韻,語,文法のいずれのメタ言語的意識も,特に4〜6歳の間に著しく向上した。また自閉症児は,誤信念理解とメタ言語的意識がそれより言語年齢の低い精神遅滞児や健常児よりも劣っていた。一方文理解では,自閉症児が健常な3,4歳児同様に文意のもっともらしさに敏感なのに対して,精神遅滞児はこの意味的情報を利用できなかった。さらに心の理論と言語発達との関連では,特に健常児と精神遅滞児において,たとえ年齢と言語年齢を統制しても,誤信念理解と語の指示に関するメタ言語的意識との相関が有意であった。従って自閉症以外の子どもでは、誤信念と語の意識にメタ表象の発達が関わっていることが示唆された。 次に,心の理論と同様に,実行機能の記憶はいずれも4〜7歳の問に向上するものの,特に4歳では出典記憶が床効果に近い成績であるのに対し,時間的順序や作業記憶は床効果を示すほど低くはなく,これらの記憶が一様に発達するわけではないことが示された。さらに心の理論のうち,特に自己の誤信念(表象変化)と知識の情報源の理解の成績が,たとえ年齢や言語年齢を統制しても出典記憶ならびに自由再生の成績と有意な相関を示した。従って,心の理論のうちある特定の課題のみが,出典記憶や自由再生に反映される自己体験的意識と関連することが示唆された。
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