研究概要 |
(1)異なる視覚属性の統合に関して,フリッカーパラダイムの変形版を用いて、色と時空間的位置情報の視覚的作業記憶における統合を検討した.従来,静的だが多次元情報を含む場合,あるいは単一次元だが動的な状況である場合には視覚的作業記憶内に4つから5つの物体の情報を同時に保持できることが示されているが,本研究では,動的かつ多次元な状況における作業記憶の特性を調べた.もし,従来の結果が多次元情報を統合した物体の記憶表象の保持を反映しているならば,動的で多次元な場合にも同程度の記憶容量を示すことが予測される.実験結果は3つの物体の情報を同時に保持することは著しく困難であることをしめした.これは,物体の運動という動的情報を含む場合には,多次元情報を統合した複数の物体表現が構築されているわけではないという可能性を強く示唆する.(2)最近,報告されているchange blindnessという現象は短いブランクの期間に視覚的短期記憶内に保持されている情報は極めて限られていることを示唆している.そうした厳しい容量限界を持つ視覚的短期記憶内にどのような情報が保持されているかを検討するために主観的輪郭図形が保持されやすいのかどうかを実験的に検討した.ブランクを挟んで形態が変化している物体の有無を探索させる課題では,物体の変化量が同じでも,変化物体が主観的輪郭図形を構成する場合の方が,探索がより速く,正確になることが明らかになった.(3)遮蔽された物体が視覚的注意にとって単一の物体として機能しているのかどうかを実験的に検討した.この仮説を支持する先行研究はアモーダルな補完の効果と物体の対称性の効果の間に交絡があるため,アモーダル補完の効果が非対称な物体でも生じるかどうか調べたところ,効果が完全に消失することが明らかになった.知覚的体制化と選択的注意メカニズムとの間の相互作用の更なる検討が必要である.
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