今回の科学研究費補助金により、次のような計画に基づき、実験を実施して成果を得た。 1.長日種(春繁殖動物)のシリアンハムスターにおいて、日長が長くなる春・夏の光周期環境と、逆に日長が短縮していく秋・冬を模した光周期環境で、餌や水を予測できない系列で剥奪するストレスを動物に与えたとき、ストレスに対する耐性は前者と後者の事態で異なるのか。換言すれば、ストレス耐性に季節性が見られるのかを、精巣と体重を指標として、実験検討した。その結果、シリアンハムスターでは、ストレス耐性に季節性が見られ、日長が減少する秋・冬では日長が延長する春・夏に比べ、精巣と体重発達が大きく抑制された。 2.環境の豊富化は古くから、脳重量を増大させ、諸種の行動を改善することが知られている。そこで、環境の豊富化は、また、ストレスに対する耐性を増強するだろうとの仮説を立てた。すなわち、豊環境は餌や水の剥奪に由来するストレスによる精巣や体発達の抑制を緩和する効果を持つことを期待した。その結果、回転輪、はしご、L字型トンネルなどの遊具の導入により環境の豊富化をはかった動物は、通常の飼育環境下で育った動物に比べ、精巣と体重発達は大きく、また餌剥奪に対するストレスに対して、耐性が強く、精巣と体重発達の抑制が緩和されることが明らかにされた。 3.動物は過去の光周期環境から、現在おかれている光周期環境を判断する。この場合、長日(LD18:6)→長日(LD14:10)、長日(LD14:10)→短日(LD10:14)光周期環境で、同じ4時間の日長の減少は、精巣と体重発達にいかなる効果を与えるのか。ともに相対的には4時間の減少であるが、後者の場面はシリアンハムスターの臨界日長をまたいでの減少である。この結果、短日下の餌剥奪により精巣と体重は大きく抑制されたが、阻害効果は特に後者の事態で大きく、単なる日長の減少でなく、臨界日長を挟んでの日長の減少が重要なことが明らかにされた。
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