20歳を超えたニホンザルは繁殖能力が低下し、老ザルと言われる。このニホンザルを対象として、老化に伴った認知能力の低下のプロセスと社会行動の変化を実験と行動観察によって明らかにすることが、本研究の目的であった。 1. 野外集団を対象とした長期縦断的研究:過去8年間にわたり社会行動が縦断的に記録されている中心部成体オスの成体メスとの社会関係の記録を継続して行った。中心部成体オスの年齢は9歳から25歳までの広範囲であり、老齢オスは成体オスよりも体力的に劣ることは自明であるが、メス、特に高順位メスとの親和的関係を持続させていた。さらに、老齢オス間でも長期の親和的関係を維持していた。これらの安定した社会関係が、成体オスの順位上昇を阻み、結果的に高位老齢オスの順位安定に結びついていた。 2. 老齢メスを対象とした学習実験: 過去5年間にわたり、実験室で飼育されている老齢ニホンザルメスを対象として空間認知に関する実験を継続的に行っている。今年度も、同様に同じ個体に対して実験を行った。30歳を超えた老齢メスにおいて、昨年度に比べて極端な学習成績の低下が確認された。しかし、野外集団でも生存が極めて稀な25歳から30歳までの個体でもそのような成績の低下は認められなかった。 3. 野外集団での老齢個体の社会関係に関する観察と飼育老齢メスでの学習実験を次年度でも行い、比類のない長期縦断的研究を継続する。これが老化に伴う認知の減衰プロセスを明らかにすることに結びつく。
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