研究課題
ワーキングメモリは、一時的な情報の保持機構であり同時に保持内容を統合する過程である。本研究では、ワーキングメモリを情報の処理と保持の並列処理の視点からとらえ、特に日本語の読みの過程でのワーキングメモリのはたらきを中心に検討を試みた。というのは、読みは、処理と保持の並列処理が処理容量を競合しつつ相互に促進して統合へと向かう特徴を有するためである。特に、日本語の読みは構文構造、および表記についても独自の特徴を持ち、その観点からの検討が必要であると考えられるためである。12年度では、日本語の読みに基づくワーキングメモリの個人差を測定するリーディングスパンテスト(RST)を基本として、日本語の読みにおける情報処理の特徴を探索した。そこで、日本語と外国語のRSTの成績を比較した。外国語のRSTと比較したのは、母国語と異なり、語彙や構文構造の処理により多くのワーキングメモリ容量を削減されることが予測されるためである。その結果、文の読みと保持が並列的に行なわれるワーキングメモリの負荷条件では、削減されたワーキングメモリ容量を意味的保持に利用する場合と音韻的保持に利用する場合があった。それぞれの方略の利用は、被験者の容量とも関連していることがわかり、容量に余裕のある被験者では意味的保持を多く用いることが示唆された。また、日本語でこの傾向が一層顕著であった。さらに、事象関連電位と反応時間を測度として、意味プライミング効果と音韻プライミング効果を漢字、仮名表記のそれぞれの提示条件で比較した。その結果、反応時間には、意味的プライミングの効果が、音韻的プライミングよりも顕著に認められた。この効果は漢字にも仮名にも認められた。また、事象関連電位は、意味的プライミングの効果が前頭部位の活性化を導き、意味的プライミングの脳内機構がワーキングメモリの中央実行系とのかかわりが強いことが示唆された。
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