本研究では、ワーキングメモリを情報の処理と保持の並列処理の視点からとらえ、特に日本語の読みの過程でのワーキングメモリのはたらきを中心に検討を試みた。というのは、読みは、処理と保持の並列処理が処理容量を競合しつつ相互に促進して統合へと向かう特徴を有するためである。特に、日本語の読みは構文構造、および表記についても独自の特徴を持ち、その観点からの検討が必要であると考えられるためである。 まず、ワーキングメモリの保持機構の一つである音韻ループにおける音韻類似性の効果を取上げ、その特徴を日本語について検証した。その結果、音韻類似性効果は日本語の音韻形態においても確認できた。さらにその効果は、感覚モダリティに依存せず、聴覚提示でも視覚的提示も認められ、視覚提示では表記形態にかかわらず漢字表記、仮名表記ともにその効果が認められることがわかった。 また、日本語の読みに基づくワーキングメモリの個人差を測定するリーディングスパンテスト(RST)を基本として、日本語の読みにおける情報処理の特徴を探索した。その結果、文の読みと保持が並列的に行なわれるワーキングメモリの負荷条件では、削減されたワーキングメモリ容量を意味的保持に利用する場合と音韻的保持に利用する場合があった。それぞれの方略の利用は、被験者の容量とも関連していることがわかり、容量に余裕のある被験者では意味的保持を多く用いることが示唆された。 さらに、事象関連電位を用いて、意味プライミング効果と音韻プライミング効果を漢字、仮名表記のそれぞれの提示条件で比較した。その結果、両刺激について意味的プライミングの効果が、音韻的プライミングよりも顕著に認められた。また、事象関連電位は意味的プライミングの効果が前頭部位の活性化を導き、意味的プライミングの脳内機構がワーキングメモリの中央実行系とのかかわりが強いことが示唆された。
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