研究概要 |
視覚探索を支える心的機能としてのワーキングメモリー(WM)について,探索課題中の刺激が誘発する事象関連電位(ERP)を指標として検討し,以下のような知見を得た. (1)音声的言語刺激,視覚的言語刺激,および視覚的イメージをテスト刺激とする記憶探索課題を遂行中にERPを記録し,記憶セットサイズに伴って振幅が増大する陰性電位(SN)を観察した.副課題として無意味語のリハーサルを同時に課すと,音声刺激に対するSNの振幅は著しく減少した.視覚刺激に対するSNは,単独課題時では聴覚刺激に対するものよりも振幅が小さかったが,副課題の影響は受けなかった.また,リハーサルによって,音声刺激に対するN1振幅が減少したが,視覚刺激に対するERPは,影響を受けなかった. (2)同一の刺激を用いて,位置,形,色のそれぞれの特徴に関する遅延見本合わせ課題を実施した.記憶刺激-テスト刺激間のERPの分析から,位置の記憶を支える脳機能の体制化と,形および色の記憶を支える体制化とは異なるものであることが確認できた.また,位置記憶課題においては,テスト刺激に対するERPのN1成分は,記憶負荷が大きい条件で振幅が減少したが,形記憶および色記憶課題ではこのような負荷効果は,出現しなかった. これらの結果から,WMを構成する下位過程として,音韻ループと視覚性WMが存在すること,後者はさらに空間的特性に関するWMと非空間的特性に関するWMに分離可能であること,およびWMと"注意"は,それらを支える脳のメカニズムという点で重複する機能であることが明らかになった.
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