研究概要 |
1.視覚探索およびそれに関連する課題を遂行中の健常成人から事象関連電位を記録し,以下の結果を得た. (1)探索文字数の増加によるERPの変化には,出現部位や出現潜時,および標的の定義方法の効果によって区別可能な,少なくとも2種類の陰性変動が含まれる.(2)同一刺激に対するERPであっても,その刺激に含まれる位置,形,色のどれに関する記憶が要求されるかによって,課題の難易度がERPに及ぼす影響が異なる. 2.時間的・空間的に重複するERP成分を分離して評価する方法として,ワーキングメモリ研究でよく用いられる二重課題法を導入し,以下の結果を得た. (1)視覚探索課題と同時に暗算課題を行うと,探索課題の視覚負荷によるERP変化には影響しないが,記憶負荷に伴うERPの変化を,特に後頭部において増大させる.(2)記憶探索課題と同時に無意味語リハーサルを行うと,視覚刺激に対するERPには影響しないが,聴覚刺激に対するERPの記憶セットサイズ効果を著しく減少させる.(3)心的回転課題において刺激の回転角度に伴って変化する陰性電位は,文字の記憶課題を同時に行っても影響を受けないが,無意味図形の記憶課題を同時遂行すると,右半球側頭部における振幅が増大する. これらの結果は,(1)ワーキングメモリに音韻ループと視空間スケッチパッド,さらには視覚的ワーキングメモリと空間的ワーキングメモリという性質の異なる下位システムを想定することが妥当であること,(2)これらの下位システムを支える脳のネットワークの活動が,時間的・空間的に重複して出現するERPの電位変化に反映されている可能性があること,(3)これらの重複した成分を分離し,さまざまな認知活動におけるワーキングメモリの下位システムの活動を評価するのに,二重課題法を用いたERP研究が有効であることを示している.
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