(1)研究成果の概要 高齢者の認知機能を速やかに、かつなるべく簡便な方法で測定し、脳神経の生物化学的変性を予測するためのシステムを開発するための基礎研究をサル類を用いて行うことであった。従来のWGTAを用いた方法は、脳機能障害の検出に数ヶ月を有し、スクリーニングテストとしては有効ではない。われわれの開発した修正型指迷路は、1-2週で実験を終了することができ、飼育ケージで一度に複数個体に実施することができる点でも画期的である。今回の実験によりその有効性が強く示唆された。今後WGTAとの交差検査、脳血流検査による検証が実施されることになろう。 (2)WGTAをもちいた老齢ザルの記憶方略の検証 老若両群とも転移課題を重ねるにしたがって課題獲得に要する試行数は減少したが、老齢群の学習セットの獲得は、若齢群よりも遅かった。転移課題において老齢ザルの顕著な成績の低下が確認されたということは、既得ルールの応用を困難にしているのは固執傾向だけではないことを明らかにした。さらに、老若両年齢群で、反応刺激の位置が見本刺激に近接するほど、再認の成績は低下した。老齢ザルと若齢ザルは、いずれも反応すべき刺激の位置を展望的に符号化していることが示唆された。反応刺激の位置が基本課題とは反対の方向に呈示されると(すなわち行動方略が無効になる事態では)、老齢群のみ再認の成績が低下した。老齢ザルの位置再認は、身体的な定位行動/展望的な符号化という、行動・認知方略に依存しており、それを使用できたばあいのみ、若齢ザルと同程度の再認が可能であることが示唆された。 (3)修正型指迷路課題をもちいた簡便な空間認知能力テスト エラーボックス付きの4段指迷路課題について被験体数を増やしたところ、ステップがあがるに従って、老齢ザルの成績が統計的に有意に低下し、この課題が高次脳機能の低下を検出するのに有効な手段であることが示唆された。今後、WGTA成績との比較、脳血流量の変化との比較について検討を進めるられる。
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