研究概要 |
本研究の目的は,身体活動が個人の健康や社会的相互作用に良い影響をおよぼすという一般論,すなわち身体活動をすることによって得られる気分と健康の改善,抑うつの改善,不安の軽減,心理的な健康の改善などを精神生理学的および脳波学的に証明することである.その前段階として,本年度は,快・不快の情動を,研究実績のある自律神経ポリグラフィーに基づいて測定し,得られた結果に多重分析を加えた.情動が生じるコンテクストを考慮して,情動誘発刺激にはそれぞれ10minに編集したビデオ映像を用いた.正の情動を誘発するPositive条件,負の情動を誘発するNegative条件,特に情動を誘発しないControl条件の3条件を設定し,ランダムに被験者へ呈示した.生理指標は眼電図,血圧,心電図,指尖表面皮膚温,指尖容積脈波,血圧,呼吸,皮膚電位水準・反応とし,これらをポリグラフ的に記録した.各条件終了後,映像刺激が喚起した情動を尺度評定させた.その結果,皮膚温はPositive条件において低下し,Control条件において上昇した.Negative条件において最も不快と報告された場面では自発性瞬目が増加し,血圧と心拍数も同じ場面で増加した.本実験の結果は心臓血管系の減少には刺激への注目:「環境の取り込み」が関係し,亢進には「環境の拒絶」が関係するという「取り込み-拒絶」説と合致した.心臓血管系の指標と皮膚温の一部に,Positive条件とNegative条件で,方向性を異にする生理反応が認められたことから,刺激-反応の特異性が検出できたと推察している.次年度は明白に快・不快の情動を喚起させるために,厳選した動画をパソコンで編集し,研究課題に応えた成果を上げたいと思っている.現在のところは,動画刺激の編集を行っている最中である.
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