本研究は、ラットにおける空間情報処理について生理心理学的間題を4つの側面から明らかにすることを試みた。 1)場所課題と手掛課題の学習と遂行に係わる海馬と背側線条体(DS)の機能。水深の浅いプール(水深約12cm)においても典型的Morris水迷路と同様の結果が得られることを確認した。このプール課題を用いて、場所と手掛刺激の利用可能性を変化させた事態で課題解決方略の分析を行った。その結果、海馬と場所方略の関係に加えて、DSと手掛方略との関係が示唆された。 2)内側新線条体(MCPu)の行動学的機能を放射状迷路を用いたwin-shift・win-stay条件での場所と手掛課題遂行との関係で明らかにした。MCPu群はwin-stay条件の場所課題を学習できなかったが、他の課題条件では学習できた。この結果は第1の研究と一致しないところがあるが、MCPuが海馬と直接の連絡路を有することを示す先行研究を参照して考察し、今後CPuの選択的損傷の効果を調べる必要を指摘した。 3)学習と遂行に与えるグルタミン酸NMDA受容体アンタゴニストMK801投与の効果が異なる。この違いが、学習経験と投与時期によって影響されると仮定し、場所と手掛課題で実験を行った。結果は、課題に係わらず、先行学習経験を有している場合に、後続の課題の学習における薬物投与の効果が緩和されることが認められた。 4)海馬と頭頂葉の行動学的機能の分化を照明の有無を条件とする水迷路課題において試みた。海馬損傷ラットはどの条件においても成績が悪かった。頭頂葉損傷ラットでも成績は悪くなったが統制ラットと差はなかった。この結果は、海馬は空間情報処理にトータルに関係するが頭頂葉の関与は限定的であることが示唆された。 以上、海馬以外の部位と空間情報処理の関係についてはさらに検討することの必要性が認められた。
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