本研究は、ラットの脳の空間情報処理システムの解明のために、課題解決における方略利用の側面から海馬・背側線条体・頭頂葉の機能分化を試みた。 1.まず、海馬と背側線条体(DS)の機能分化をMorris水迷路における場所・手掛り課題で行った。場所刺激と手掛り刺激の利用可能性を変化させた各種テストで課題解決方略の分析を行った。その結果、海馬は場所方略の使用に関係し、DSは手掛方略に関係することが明らかとなった。 2.内側新線条体(MCPu)の行動学的機能を放射状迷路を用いたwin-shift・win-stay条件での場所と手掛課題遂行との関係で明らかにした。MCPu群はwin-stay条件の場所課題を学習できなかったが、他の課題条件では学習できた。この結果は第1の研究結果と一致しないところがあるが、MCPuが海馬と直接の連絡路を有することを示す先行研究を参照して考察し、今後CPuの選択的損傷の効果を調べる必要性を指摘した。 3.海馬と頭頂葉の行動学的機能の分化を照明の有無を条件とする水迷路課題において試みた。海馬損傷ラットはどの条件においても成績が悪かった。頭頂葉損傷ラットでも成績は悪くなったが統制ラットと差はなかった。この結果は、海馬は空間情報処理にトータルに関係するが、頭頂葉の関与は限定的であることを示唆した。 4.最後に、学習と遂行に与えるグルタミン酸NMDA受容体アンタゴニストMK801投与の効果が異なる。この違いが、学習経験と投与時期によって影響されると仮定し、場所と手掛課題で実験を行った。結果は、課題に係わらず、先行学習経験を有している場合に、後続の課題の学習における薬物投与の効果が緩和されることが認められた。 海馬以外の脳部位と空間情報処理の関係についてはさらに検討する必要性が認められた。
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