平成11年度は、(1)分配・交換・所有に関する文献的な事例研究、(2)それに基づく進化ゲームモデルの開発とコンピュータ・シミュレーションの実施、及び、(3)コンピュータ・シミュレーションから導かれた仮説に関する予備的な実験的検証、を行った。文献的な事例研究では、狩猟採集社会における分配についての人類学の知見をレビュウし、分配のスタイルと資源獲得の安定性の間に有意義な関係が見いだされることを明らかにした。具体的には、資源獲得の不確実性が高い場合に限って、獲得者の血縁を超えたバンド全体での分配が行われるという知見である。この知見を出発点に、進化ゲーム分析を用いた、分配行動に関する理論モデルを構築した。さらに、このモデルのもつ経験的な含意を、一連のコンピュータ・シミュレーションにおいて関連パラメターを組織的に変化させることで、検討した。さらに、この分析から導かれた経験的な仮説の一部を、心理学実験により予備的に検討した。こうした検討の結果は、モデルの妥当性を支持するものであった。なお、これらの研究の一部は、米国ユタ大学において行われた、Human Behavior and Evolution Societyにおいて、Kameda & Takezawa(1999)、Takezawa & Kameda(1999)として発表された。また、『認知科学』誌(認知科学会)においても、上記シミュレーションに関する予備的な報告を行っている。
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