本研究は、状況要因が特性推論過程に及ぼす影響について、行為頻度を手がかりに検討することを目的としている。初年度は、状況要因の影響性を組織的に分析するために、基本名辞仮説にもとづく辞書的アプローチにより状況表現用語の分類を行い、特性推論に用いられる妥当な状況分類枠の構築を試みた。具体的には、市販の国語辞典(岩波国語辞典:約62000語:CDROM版)をもとに、日常の状況、およびそれを表現する用語を抽出し、分類を行った。当初は対人的状況のみをターゲットとする予定でいたが、状況要因の多重構造性に鑑み、自然環境等も含め広範な分類を試みることにした。試行的分類を繰り返した結果、状況的要因は、形態的、目的的、関係的、機能的という4側面から分類することが妥当であろうとの結論を得た。状況の形態的分類とは、対人的な相互作用が行われる「時間」や相互作用を取り巻く「環境」などの形態に関連する分類であり、おおむね季節・天候、時間・曜日、地勢・地形・建造物、物質・物象の4カテゴリーに分類された。目的的分類とは、対人的な相互作用が何を目的として行われるかに基づく「場所」や「場面」の分類であり、日常、労働、売買、余暇、論談、研究教育、健康、芸術、矯正、宗教、儀礼、行政の12カテゴリーとした。関係的分類とは、対人的な相互作用状況に継時・共時的に存在する人や物同士の「関係」に関する分類であり、血縁、成員、地位・役割、契約、取引、制度、伝達、偶発、単独、超自然の11カテゴリーに分けられた。機能的分類とは、相互作用状況のもつ対人的な「機能」に関する主観的な認識に基づく分類枠で、好意、協調、尊敬、支配、養育、利潤、探求、適応、促進、刺激の10カテゴリーとした。次年度はこれらの状況分類をさらに洗練するとともに、頻度を測度として種々の行動や特性との結びつきを検討し、特性推論における状況要因の役割を総合的に検討する予定である。
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