有数の長寿国である日本でも沖縄県は群を抜いており女性に限れば世界最高の長寿地域である。その長寿には、固有信仰である祖先崇拝の営為と土着シャーマニズムが作用しているとの仮説をもとに、本研究は命題「沖縄の固有信仰に支えられた死生観は、精神的安定と死をめぐるストレスの緩和に寄与して、長寿の促進要因をなしている」を社会心理学の視点から多角的に検証した。得られた成果の要点は以下のようである。 1. 沖縄の長寿をめぐって従来提唱されてきた諸説(気候説、食生活説、飲料水説など)はいずれも性差を考慮していないことを指摘し、女性の長寿の要因として日常的な祖先祭祀の実践の重要性が強調された。 2. これまでに実施してきた沖縄シャーマニズムのフィールドワークのデータの再解釈をもとに、シャーマン「ユタ」のコスモロジーには死後の世界のリアリティが濃厚で、"この世"と"あの世"の連続性が強調され、クライエントである中高年女性の死生観に大きな影響を持つことが明らかにされた。 3. 習慣化している一日・十五日のヒヌカン(火の神)とトートーメー(祖先の位牌)の祈願行為は自己解放をもたらしている。 4.老人ホーム入園者およびの老人科入院者の事例には定期的に自己治癒機能を持つ変性意識状態に入っている事実が見いだされた。 5. 高齢女性は自分の人生を、祖先から子孫へとつらなる連続線上の一部ととして位置づけており、それが安定した自己観を培っている。 要するに、シャーマニズムは地域文化が培ってきた危機への対処システムであり、シャーマン「ユタ」はいわば野のカウンセラーとしての役割を担っている。これらの知見は進行する高齢化社会に向けて重要な示唆を与えるであろう。
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