愛着理論を基盤に、親の育児困難についての検討を行うことを目的とし、特に愛着の世代間伝達についての要因を、他の家族・文脈的な要因を絡めながら、厳密に分析することを開始した。欧米の先行研究から、自分自身の愛着の生育歴が不安定な成人は、自分が親になったときに、その不安定な関係を繰り返す傾向にあることが示唆されている。つまり、親の生育史を把捉することは、育児におけるストレスひいては育児困難性を予測する1つの重要な情報を得ることにつながると仮説される。 データは収集の途中であるが、面接から書き起こされたトランスクリプトをもとに、母親の生育史は、愛着安定型と不安定型(以下の3つを合算して:愛着軽視型、とらわれ型、未解決型)に分類された。安定型の母親に比べて、不安定型の母親は総じて、育児ストレスが高かった。そして、特に、子どもの発達の具合や子どもとの関係などについての「子ストレス」領域のストレスが強いと、その母親の子どもの愛着が不安定になる傾向にあった。そして、この結果は母親の現在の愛着に対する心的状態が、今の親子関係の側面に影響を与えていることを否定できないことを示した。
|