愛着理論を基盤に、親の育児困難性についての検討を行うことを目的とした。母親の成人の愛着表象をアダルトアタッチメントインタビューによって測定し、父母ともに育児ストレス、家族・夫婦関係の質、それぞれの実家および配偶者の実家などとの関係性を質問紙で測定した。欧米の先行研究から、自分自身の愛着の生育歴が不安的な成人は、自分が親になったときの養育状態の質が悪化しやすい傾向にあることがわかっており、そのような内的な要因がどのように、社会文脈的・家族背景的な要因と関連するのかの検討を行った。 父親が報告した妻に対する親密性・自己開示性の程度が高いほど、母親は育児ストレスを低く感じていた。同時に、母親の成人としての愛着状態が安定型の場合に、夫の妻に対する親密性・自己開示性が高かった。母親の育児ストレスは、自分自身の愛着表象のタイプと関連しており、愛着が不安定な母親のほうが育児ストレスを強く感じていた。これらのことを総合的に考えると、母親の成人としての愛着がかなりの強い要因として、養育環境における感情状態を規定していることがわかる。 日本のように母親が量的にも質的にも子育ての中心を担う社会では、母親の要因がよくも悪くも影響を与えやすい。そこに切り込み、異なる影響を与えうる背景要因として、父親側のかかわりが重要なことが示唆された。
|