本年度は主として、頸髄損傷者の運動発達を数カ月にわたって記録し解析した。ここではその成果の要旨を述べる。 事故で頸椎5番を脱臼・骨折し「損傷部位以下の知覚と運動が完全に麻痺している」と診断された患者の「靴下履き」の再学習過程を分析した。靴下履きは「体幹支持姿勢」と「両脚姿勢」の調整、「靴下に足先を入れる」、「靴下に足を押し込む」という4つの行為の相によって成立していた。発達はこれらの相の入れ子化の推移として記述された。当初(9月)、4つの相を分離できず、同時に進行していた患者は、各位相を分離し、経時化し、段階的に探る時期(12月)をへて、さらにその分離した探索を崩し、新たなレベルの入れ子化を達成していた(3月)。このように探られた靴下履きの基盤をなす姿勢は「同時的姿勢」とよばれた。この分析は複雑な行為の成立過程が種々の行為の相の同時性の推移として記述できることを示した。 論文にまとめた上記の事例以外にも、頭部外傷、卒中後の片マヒ、脳性マヒなどの患者の運動発達も同様に観察し、解析中である。
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