脳卒中や事故等、種々の原因で身体運動に重態な障害を得た重度運動障害者は、受傷後に運動の状態は固定することなく、新たな多種の運動機能を獲得する。重度運動傷害についての医学的研究は初期の脳の診断による予測が主であり、このような傷害を得た後の「運動発達」については有効な説明をしてこなかった。運動がそれを可能にする環境の性質と相補的に創発するという観点は希薄であった。本研究では生態心理学のアフォーダンスの観点をもちいて運動傷害の運動発達を検討した。脳卒中、頸椎損傷などの患者数名を観察対象として、彼らが数年間にわたって新しい運動システムを獲得する過程を、運動の周囲の環境との関係を中心として縦断的に分析した。 神奈川リハビリテーション病院理学療法・作業療法科の協力を得て、頸椎損傷、成人脳性マヒ、片脚上部大腿部切断、脳卒中等の患者を月一回以上のペースで観察した。観察では、運動プラニングの成立と周囲の環境の設計(周囲の物の配列の変更)、配置換えとマイクロスリップとの関連、頚髄損傷者の日常的な運動発達を身体の再組織化として記述すること、脳梗塞者が鯵を解体する行為過程の記述等の課題にアプローチした。 成果はオリジナル論文としては紀要に、背景となる理論については幾つかの展望論文と書籍の一章としてまとめた。また国際学会で成果を発表した。
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