入学後1年間に教室内において、児童が教室行動文化(授業や学習にかかわる慣習・文化)をどのように習得していくのか、また教師-生徒、生徒同士でどのように習慣が形成・共有され、自己制御行動を獲得するのかを明らかにする。1年間にわたり、都内の公立小学校1年生の1クラスの担任教師と30名の児童を観察した。観察は、年間16回の予定で(観察は現在も進行中である)、一日の教室内外で生起する社会的相互交渉のVTR記録および筆記記録をとっておこなわれた。 本年度は、教室行動のなかでもとくに、教師および児童の共同行為(collaboration)過程として、「話し合い」のに焦点をあてて分析をおこなった。その結果、まず話し合いを実行するための道具獲得および共有として、「決まり文句」や「多数決」が導入されることが特徴としてみられた。そこでは、活動の道具としてこれらのことば遣いや行動様式を紹介する役割は教師がとるが、決して一方向的に決定せず、児童ひとりひとりに共同行為への、そこに参加したり意見表明をしたりするための文化的道具として、彼らに自主的、選択的に獲得させるように配慮していることが伺えた。さらに、教師の発話のなかで、場面に応じた敬体表現と常体表現のことばの使い分けが多く観察されたことが、もうひとつの特徴であった。それに対応して児童の行為の性質も変化しており、これが教室内における相互行為を構成するための、子どもたちの状況および他者理解と自己制御に寄与していることが伺えた。
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