1999年-2000年の2ヵ年計画で公立幼稚園及び小学校の「道徳」の授業の中で、役割取得能力(思いやりの心)の発達段階の向上を意図した道徳教育実践モデル(以下、VLF:Voices of Love and Freedom)を縦断的に実施することができた。幼稚園と小学校の双方とも園及び学校全体でこのプログラムの実施に協力してもらうことができた。このモデル授業を年間の計画の中に盛りこむとともに、教職員全員にこのプログラムの特徴と思いやりの心の発達について講義し理解を求めることからスタートした。幼稚園では、年長児のクラスを主に対象とし共感性と社会性を測定するアセスメントを行い、個々の幼児の役割取得段階を明らかにした。1学期に1回つぎのような形でVLF授業を実施した後、再度アセスメント(ポストテスト)を行い、VLFの授業によって発達段階が向上するかどうかを検討した。VLF授業は、ステップ1(結びつき)、ステップ2(絵本を用いての討論、パートナーインタヴュー)、ステップ3(実践:ロールプレイ)、ステップ4(表現:描画を通しての手紙)から成り、2日をかけて集中的に一斉指導の形式で行われた。小学校では、1999年度は2年生、4年生、6年生を対象にし、2000年度は1年生、4年生、5年生を対象に学期に1度の割合でVLF授業を実施した。小学校はアセスメントとして役割取得段階、ソーシャルスキルについての自己評価と教師評価、ソーシャルサポートをプリテスト、ポストテストとして実施した。その結果、幼稚園、小学校でそれぞれVLF授業による調査による効果が認められたほか、生徒全員がロールプレイやパートナーインタヴューに積極的に参加する姿が記録された。また、問題行動をもった抽出児についても好ましい変化が教師より報告され授業による効果が指摘された。この成果については、1999年度はVLF実践の提唱者であるセルマン博士をハーバード大学から招待し教育関係者らを対象に国際シンポジウムで発表した。2000年度にも教育関係者を対象に、子ども人権感覚を育てるための教育実践講座を実施したほか、図書4冊と雑誌3編にこのプログラムの特徴と成果を紹介した。
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