研究概要 |
ストレス状況では,ストレスを低減するための試みとして対処方略を採用する。対処方略は,問題焦点型対処と情動焦点型対処に分けて,検討されてきた。問題焦点型対処は,ストレス状況からの情報を集め,具体的な対応を試みる方略で,適応的な方略であると考えられてきた。一方,情動焦点型対処は,ストレス刺激により高まった情動を低減させる試みであり,その効果は短期的で,不適応な方略であると報告されてきた。しかし,対処の有効性は状況の制御可能性に依存しており,状況に応じて柔軟に対処方略を採用することが重要であるといわれている。本研究では,対処方略の柔軟な採用がストレスに及ぼす効果を検討した。 平成12年度は,検討1として,対処方略の柔軟性がストレスに及ぼす影響を検討した。対処の柔軟性を測定する尺度として,制御可能性の異なる場面を設定して対処方略の採用を答えさせるという柔軟性尺度を作成した。この尺度に,ストレッサーの認知とストレス反応を加えた調査票を作成し,看護職従事者に対して調査を行った。看護職従事者のストレス反応に対して大きな影響を与えているのは,ストレッサーの認知であり,対処方略の影響はわずかであった。従来の対処分類と柔軟性による指標化の比較を行ったが,両者に大きな差は認められなかった。看護職は対処が具体的な成果に結びつきにくいために,対処のストレス低減効果が認められにくかったものと思われる。 検討2として,対処の柔軟性を阻害する社会的要因の探索的検討を行うため,他者からの期待がストレス反応に及ぼす影響についての調査を,看護職従事者を対象として実施した。患者から期待されてもストレスに結びつくことはなかったが,同僚から事務や管理業務に対して期待されることはストレスと結びつきやすいことが示された。今後は,柔軟な対処採用を拒む社会的要因についての検討を行う必要がある。
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