恐怖アピールの説得効果に関しては、強恐怖アピールのほうが弱恐怖アピールよりも優れているという見解が一般的である。しかし、恐怖アピールの説得力は、無菌状態での効果にあるのではなく、先行逆説得の効果を打ち破るところにその真価がある。そこで、第1研究として、先行逆説得に対する恐怖アピールの論駁効果という視点から、恐怖アピールの説得力を査定しようとした。 先行逆説得(逆説得、無逆説得)と恐怖説得(強恐怖説得、弱恐怖説得、無説得)を独立変数とし、事前-事後測定計画に基づき従属変数の測定を行った。説得話題に関する事前測定の1週間後に逆説得操作と事後測定を実施し、その1週間後に恐怖説得操作と事後測定を実施した。なお、この実験の被験者は138人の大学生であり、実験材料として印刷メディアを使用し、以下の結果を得た。 1.統制条件を比較基準にとると、強恐怖説得は有意な説得効果を持つだけでなく、逆説得の効果を完全に論駁した。2.ところが、弱恐怖説得は有意な説得効果を持つけれども、逆説得の効果を論駁する力は持たなかった。3.強恐怖説得と弱恐怖説得は、先行逆説得が存在しない場合にのみ等しい説得効果を示したが、先行逆説得が存在する場合には強恐怖説得は弱恐怖説得よりも有意に大きい説得効果を示した。 本研究によって、弱恐怖アピールに対する強恐怖アピールの優位性が、先行逆説得への論駁効果の形をとって初めて査定できる場合があることを実証した。
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