本研究の目的は、健康や安全への脅威に対する対処行動意志の改善に及ぼす恐怖アピール(脅威アピール)の説得機能を解明することであった。研究1では、先行逆説得に対する恐怖アピールの論駁効果を検討した。先行逆説得が存在しない場合には、強恐怖アピールと弱恐怖アピールは等価で有意な説得効果を生じさせたが、先行逆説得が存在する場合には、強恐怖アピールのみが有意な説得効果を生じさせることを実証した。研究2では、後続逆説得に対する恐怖アピールの抵抗効果を検討した。強恐怖アピールのほうが弱恐怖アピールよりも逆説得に対する抵抗効果が大きく、また、その抵抗効果の大きさは、逆説得を構成する論拠のタイプによって異なることが示された。研究3では、恐怖アピール効果の規定因を防護動機理論の枠組みから検討した。恐怖アピールは、防護動機理論の提唱する7つの認知変数と、エイズ予防行動意思およびHIV感染者・エイズ患者に対する態度との関係性を強化させることが判明した。研究4では、これまでに提出された恐怖アピール・モデルの説明力を比較検討した。認知的統制モデルの説明力が、緊張低減モデル、三次元モデル、防護動機モデルよりも優れていることがわかった。研究5では、受け手自身あるいは家族を脅威ターゲットとする場合の恐怖アピールの効果を検討した。受け手自身よりも家族への脅威を強調するほうが恐怖アピールの効果は大きいことが明らかとなった。研究6では、予告が恐怖アピールによる説得前後の行動意思変容に及ぼす影響を検討した。予告は、強恐怖アピールによる説得前の行動意思変容を促進し、説得後の行動意思変容を抑制するが、弱恐怖アピールによる説得前後の行動意思変容には影響を及ぼさないことを発見した。
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