研究概要 |
本研究の目的は,"言葉"と"動作"の持つリズムが,子どもと大人の間で共有され,子ども自身の中でも統合されていく際に,認知系と情動系がどのような機能を果たしているのかについて検討することである。このうち,平成11年度分では,「認知系」の機能に注目し,感覚運動レベルから認知レベルに至るまでのリズムを伴う制御構造の発達的変化について検討した。これを踏まえて平成12年度分では,「情動系」の機能にも注目し,情動系-認知系の力動的な関係を通して,感覚運動的協応から認知的制御に至るまでの発達的変化を明らかにしモデル化する。具体的には,感覚運動的協応(リズミカルな身体動作)と認知的制御(教示の言語的意味に従った身体動作)の要素を合わせ持った動作協応課題を考案した。[(1)掛け声から動作の具体的なイメージが喚起され,かつ相互の情動的な関わりも促進され易いイメージ動作課題,(2)単純に掛け声のリズムのみに動作を合わせるリズム動作課題]その上で,大人-子どもと,子ども-子どもの相互形態の違いによって,協応過程にどのような発達的な特徴が見られるのか,4,5,6歳児を対象に検討した。主な結果は,以下の通りである。(1)課題の違いで見てみると,年少児ほど,リズム動作課題よりも,イメージ動作課題の方が,言葉と動作の協応は形成されやすい。(2)相互形態の違いで見てみると,子ども-子どもよりも,大人-子どもの関係の方が,言葉と動作協応の程度は高い。しかしながら,その質的な差異に目を向けると,大人-子どもの場合は,大人が正確なモデルを示し,子どもがそれに誘導される形での協応内容であり,子どもにとっては言語よりもまず動作優位な協応過程である。一方,子ども-子どもの場合には,どちらかが先導するモデル役になろうとし,そのために言語優位で相手をリードしようとするが,大人-子どもほどには協応できないというものである。
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