研究概要 |
3種類の顔の表情(嬉しい/悲しい/どちらでもない)を潜在的に呈示することにより、調査対象者のムード、好感度、再認にどのような影響を与えるかどうかを検討する。また、好意度と再認において、再度呈示された時に、顔の表情が異なっていた場合どのように違いがあるのかも明らかにしたい。これらの結果を比較することにより、感情が潜在的にプライミングされた記憶と顕在記憶を別々に影響を及ぼすメカニズムを解明できることが予想される。さらに、日本人とアメリカ人の調査結果を比較し、顔の表情と記憶の測度(好感度,再認)との相互の関連を詳しく見た。 調査対象者として、のべ日本人計437名;アメリカ人34名に対して調査を行った結果、以下のことがわかった。日本人の結果では、(1)前に見たことがある顔をより好きであると判断し、単純接触仮説が顔の認知でも検証された。(2)呈示された顔の表情によって、人間の感情状態を変化させることが、特に悲しそうな顔の表情呈示で大きく見られた。(3)顔の表情の呈示で、100%同じ表情を見せた場合より、20%他の表情を混合させた場合のほうが、より感情の変化をもたらすことがわかった。(4)悲しい表情よりも、うれしい表情の顔のほうが、より好感度が高いことが検証された。(5)悲しい表情とうれしい表情の顔では、再認においては差が見られなかった。 日本人、アメリカ人の結果の比較においては、ともに悲しい表情が、特に抑うつのムードを有意に増加させたが、嬉しい表情は有意な変化をもたらさなかった。日本人、アメリカ人とも、嬉しい顔の表情を有意により好きだと評定し、悲しい顔の表情を有意により嫌いであると評定したが、表情の違いによる再認記憶への影響は見られなかった。以上、日本人とアメリカ人では、顔の表情では、嬉しいよりも悲しい顔の表情の方が、ムードの変化に大きく影響を与えることが明らかにされた。また、顔の表情が、再認ではなく好意度のみに影響を及ぼしたことから、好意と再認のメカニズムは少なくとも一部は、異なったものであることが示唆された。
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