小学校5年生の1年間の家庭科授業における、児童の環境や学習内容、教師への「慣れ」と学習過程との関係を調べることを目的とする。家庭科は、小学校5年生になって初めて導入される教科であり、火や刃物、針などを含む多くの道具や器具を使用するため、学習や環境にかかわるルールや約束事が多くある事が特徴である。そこで(1)授業のなかで専科担当教師が、授業内でルールをどのような方略で提示するのか、児童たちはどのようにそれを習得し実行するか、(2)このような習慣形成と学習の進行・展開との関係、そしてそれに関わる教師の役割はどのようなものかを、授業や課題の目標と対応させ、1年間の教授-学習過程の中で両者の認知的、行動的側面から検討する。そこから児童の「慣れ」の過程に沿って、教師のルール提示方略や自己コントロール手がかりの変化や、既有知識の拡張と認識変化にともなう、学習スタイルおよび社会化の変化過程を検討する。 東京都内の小学校の家庭科授業の観察をおこなった。家庭科教室にカメラを設置しVTR記録をとると同時に、観察者が筆記記録をとった。教師と児童の発話・行動のトランスクリプション(言語記録)を作成し、教師の課題(ルール)提示と児童の反応におけることばの使いわけ(フォーマル/インフォーマル言語)、文構造変化の談話分析をおこなう。1学期初頭で特徴的なのは、子どもたちにとって新奇である家庭科室のなかでの約束事や、授業進行のやり方が紹介・説明されるため、教師がルールを一方向的に提示することが多かった。授業の回数を重ねるにつれ、クラス内のルール提示は簡略化・間接化していき、それに対する児童の反応は明示的になっていった。また、教師-児童の経験が豊富になるにつれ、前の場面との比較という形で課題が再導入されることが可能となり、これが経験の習慣化や再確認の手がかりとなる。
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