本研究は、1980〜1982年に生まれ、生後12か月時に愛着を測定されている2つのコホートI、IIの計60名の子どもの18年後の追跡的調査である。愛着理論によれば、乳児期の愛着はその後の発達を予測できるとされている。そこで、本研究では、19歳になった調査協力者を対象に、成人の愛着を測定するAdult Attachment Interview(AAI)、現在の人間関係、心理的適応を測定し、また、回顧的に幼児期から現在までの生活史を本人および母親から得て、欧米で論議されている愛着の連続性と発達の予測性を検討することをねらいとしている。 この目的のために、今年度は11年度調査のうちのAAIの分析を主に行った。AAIは発話の内容分析で、言語哲学者Griceの公準に違反していないかを検討する。AAIの分析には特別のトレーニングを要するためそのセミナーで訓練を受けた。その後、調査の済んでいるコホートIの11名(女子9名、男子2名)、および、同じ19歳の別群の学生29名、計40名のAAIの分析をした。まず、1〜1.5時間にわたる半構造化されたAAIの内容をすべて文字化したものに、分析のための修正を加え、トランスクリプトを作成した。このトランスクリプトをAAIのCoding & classification systemにしたがって分析した。この過程で、AAIについての先行研究を検討しなおすとともに、同じくトレーニングを受けている日本人研究者3人と議論をかさねた。 40名は予想されたように概ね安定した愛着についての心の状態を示していたが、幼児期のトラウマが未解決で不安定な事例もあった。また、AAIの分析に関連する、談話についてのわが国特有の文化、日本語と英語の語用論上の差異についての英文論文を作成中である。
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