SIMSOCを用いた集団間認知バイアスの検討:多くの集団間認知バイアス研究は、内集団を高く、外集団を低く評価する「内集団ひいきバイアス」を観察している一方で、内集団が他集団には高く評価されていないと考える「シニシズムバイアス」も得られている。この研究では、内集団ひいきとシニシズムが他集団に対する評価や援助行動とどのように関連しているかを探索することを目的として、SIMSOCによる観察とデータ収集を行った。SIMSOC(模擬社会ゲーム)は、資源が豊かでゲーム内で有利な地位にある集団と、資源に乏しくゲーム内で不利な地位にある集団とを人為的に設定された中で、各集団に所属するメンバーがさまざまな活動を行うゲームである。本研究では、各集団の自集団イメージと他集団に対するイメージの差を測定し、それらのイメージ差と各地域の所属メンバーの行動に対する評価との関係を検討した。ゲームには40名の大学生が授業の一環として参加し、2日間にわたって、ゲーム活動を行った。従属変数の測定は、ゲーム終了後に質問紙法で実施した。その結果、これまでの研究で観察された他集団をネガティブに評価するという現象が見られなかった。むしろ、ゲーム内で有利な地位にある集団において、自集団は他集団にそれほど高く評価されていないと考える「シニシズムバイアス」傾向が観察された。この研究で実施したゲームでは、典型的なゲームに比較して有利な地位にあるメンバーが最初から不利な地位にあるメンバーに対して援助的な行動を多く取るという特徴が見られ、集団間の対立が顕著ではなかったことが理由として考えられる。また、他集団に対して援助的な行動を取りながら、そのことについて集団は高く評価していないのではないかと考える傾向が、どのような要因に統制されているのかを解明することが今後の課題として指摘できる。
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