本研究は、集団成員としての公正認知者の判断過程を解明するとともに、公正判断がもたらす行動への影響を明らかにすることを目的とした。その際、本研究では、公正認知者の社会的アイデンティティに焦点をあてた。ここで報告される一連の研究は、公正認知者の社会的アイデンティティと、公正判断ならびに向集団行動の間に、相互影響的過程を仮説する視点からなされた。本報告は、4つの研究からなる。これらは、京都市有権者を対象とした2度の調査(平成11年度1000標本・平成13年度1180標本)で得られたデータを、構造方程式モデリング(SEM)を用いて解析したものである。研究1は、手続き的公正を2つの判断基準(関係性・道具性)で捉え、それらの相対的重みが、公正認知者の社会的同一視程度によって変化することを明らかにした。高同一視者と低同一視者はともに関係性を重視したが、中同一視者ではいずれの基準も影響していない事実が示された。この結果は、研究代表者による先行研究の結果に一致し、そこで呈示された成員性動機仮説を支持するものである。研究2では、手続き的公正と社会的アイデンティティの間に循環的過程を仮説し、それら集団行動に結びつくモデルを提出した。研究3では、分配結果公正をモデルに組み込み、手続き的公正ならびに社会的アイデンティティとの関係を検討した。研究4では、公正判断が引き起こす向集団行動の生起過程を検討した。主張性と損失で類型化した向集団行動に関して、手続き的公正、関係性、および、社会的アイデンティテイを組み込んだモデルを解析した。その結果、36モデルのうち34モデルが適合的であり、モデルの有効性が示された。他成員に対する向集団行動の生起には、社会的アイデンティティ、特に集団に対する愛着の媒介が広く認められた。さらに、権威の権限強化に関しては、手続き的公正を判断する過程が不可欠であることを明らかにした。
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