さまざまな対人関係的文脈が自己評価にどのような影響を及ぼすのかを明らかにし、より具体的には、親密な関係が自己評価の極端な低下を防御する効果を有するという仮設を検証することを本年度の目的とした。そのために自伝的記憶にあらわれる実際の体験の中の他者がどのような機能を果たしているかを解明せんと試みた。まず各自の成功体験・失敗体験を各1つずつ選択肢、それについて1000字から1500時前後でことの始まりから終わりまでを自由に記述してもらった。これにより、記憶は検索され、再度内的経験として利用されうるものとなった。その時点で、質問紙を配布し、自尊感情の変化、その時の他者の反応(言動)、自己による帰属など多方面に渡る質問に回答を求めた。米国の大学生にも同様の手続きの調査を実施し、比較対象とした。質問紙の分析の結果、日本は成功経験を他者と共有する程度が米国に比べて有意に少なく、失敗経験では違いは見られなかった。これは、親密関係にある者といえども、必ずしも失敗経験が共有されていないこと、また共有されていても、言動によって必ずしも反応を明白な形で示すわけではないことが推測される。次ぎに、成功経験では米国において親密他者との喜びの共有が著しく、ほめられた経験は、自分の有能さの認知と関連し、ひいては自尊感情を高めていた。しかし、我が国ではほめられ体験は一般に乏しく、経験があってもそれは努力認知と関連し、自尊感情には結びついていなかった。このことから、特に失敗において親密関係が自己評価維持のバッファとして機能していることは確認されえなかったが、親密他者との交流が自己評価に影響していることは見出された。
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