本研究で取り上げる「楽観性」という概念は、学習性無力感の研究が長い歴史を重ねる中で生まれた必然的産物であり、Seligmanの定義によるものである。これまで我々はこの「楽観性」をテーマとし継続的に研究を行ってきた。その研究の一環として行われた本研究は、「幼児の対人行動」を改善する上で母親の楽観性が重要な要因であるとの視点に立って、母親のための「対人的楽観性変容プログラム(以下、プログラム)」を開発することを目的としたものである。具体的に研究を構成したのは以下の3つの柱であった。 1、プログラム開発の基礎研究として、「ポジティブな出来事に対する帰属様式」と「ネガティブな出来事に対する帰属様式」との働きの相違、「ポジティブな出来事」および「ネガティブな出来事」に対する評価、「楽観性」と「自己の性格特性評価」との関連などについて検討を行う。 2、開発されたプログラムの効果については、幼児に社会的スキル訓練を直接施した場合の効果と比較検討する。その除に用いるターゲットスキルを選定するため、幼児が遊びに参加する際の社会的スキルについて検討を行う。 3、プログラムの内容について綿密な検討を行った上で、プログラムを実施する。 以上の研究の結果、本プログラムは、母親の対人的楽観性の変容という点において、一定の効果を発揮することが明らかになった。今後は、本研究における成果を発展させ、幼児に社会的スキル訓練を直接行った場合と比較検討した結果を踏まえながら、プログラムの効果を厳密に測定すること、またプログラムの内容のさらなる吟味を行っていくことが、課題として残された。
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