茨城県つくば市筑波山神社周辺地区、東京都葛飾区柴又地区、京都市内4か所の重要伝統的建造物群保存地区を対象として、観光のまなざしによる博物館の変容に関する調査を行なった。これらの地域では、観光のまなざしによる変容が博物館の内部空間の変容にとどまらず、地域空間全体を変容させる「空間の博物館化」と呼ぶことのできる現象が生じている。研究成果報告書ではこのうち筑波山神社周辺地区における調査の結果をまとめた。他の2地区の調査結果は別途まとめる予定である。 調査の結果、以下の点が明らかになった。 (1)民間のテーマパーク型博物館施設「観光がま園」を中心として、筑波山神社周辺地区全体にがまの油およびがまの油売り口上にかかわる史跡が点在しており、地域空間全体ががまの油をめぐる一種の博物館と化していること。 (2)しかし戦前にはこの地区にがまの油にかかわる史跡はまったく存在していなかったこと。 (3)「筑波山名物がまの油」は、ケーブルカーの撤去によって眺望という観光のまなざしの対象を失った同地区で、戦後新たに創造された伝統であること。 (4)しだいに同地区の江戸時代にさかのぼる伝統との接合がはかられ、またラジオ・テレビ・映画・音楽などのメディアを通して伝統として定着したこと。 (5)観光圏の拡大にともなってしだいに観光のまなざしを引きつけるための条件である非日常性を失うにつれて、逆に地域の民間伝承として定着しつつあること。
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