所期の予定どおり研究が順調に進行した。具体的には、質的研究としては、「天誅組の乱」によって、明治維新の発祥の地の一つとなった、現奈良県五條市をフィールドにして、郷土資料・私家文書によりながら、天領であった五條が、維新後「五條県」となるにいたった経緯、そのご奈良県をも含めて廃止され、「堺県」に吸収され、のちまた奈良県が発生する過程(五條県は廃止されたまま)を、究明した。そこには維新初期、天領共同体ならびに明治維新発祥の地としての五條圏の威信がまずあり、ついで明治政権による地方制度(すなわち自立自存的共同体であった封建的共同体つまり自然村の秩序を言うなれば「武装解除」させ、政府の末端機関である行政村に変形する過程)を追求・推進(ローカル=地方のプロブンス=地域・地区化と命名したが)する、国家・国民・民族の同期的形成である「ネイション・ビルディング」が、いかにして、五條というフィールドを舞台に展開したか、その概要が明らかになった。手短にこれを述べるならば、天領-明治維新発祥という「特権」を、明治政権は府県制のマクロ定義をつうじて、そぎ落としていったのである。他方、量的研究としては、法社会学者・千葉正士博士の『学区制度の研究』をもとに、『文部省年報』からデータを収集し、町村と学区(小学区)との関連を分析し、学区編成と地方制度との維新政府方針上の相関を、数値データで明確にした。なお、本研究の報告書は、両者をマクロレベルで統括する一種の「国家論」のかたちで、市販される学術図書のなかの一つの章としておさめられることになっている。
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