本研究は、視覚メディアを素材とした映像データベースを作成し、そのジェンダー表現を焦点にした相互行為論的分析を行ないつつ、「視覚経験の社会学」を理論的方法論的に整備することを目的とするものである。最終年度である今年度は、総括に向けて主に既存研究の理論的・方法論的な総括検討作業を行ない、合わせてデータベース作成作業を継続するとともに、その分析を試行した。 映像データベースには、1998年夏に収録した在京キー局5局の計280時間分の放送録画テープをもとに、最終的に、QuickTimeムービーによる延べ約11000本、計約100GBのTVコマーシャル映像を作成、蓄積し、データごとの指標作成を行った。このほか、1998年冬収録の同量録画テープによる作業を継続したが、年度内の作業完了を見込めなかったため中途で中断した(これに伴って、作業時間が確保できなかったため、当所予定のコマーシャル視聴実験研究は中止した)。また、2000年3月刊行のファッション雑誌89誌からファッション広告を859点選び出し、画像データベース化した。映像データベースの完成、ならびに両データベースの連結という課題が残った。 本研究は「見る/見える」ことそれ自体のあり方を把握できる理論的方法論的枠組み作りを指向している。先行研究は基本的に「映像の社会学」でありそれらは何らかの反映論に立脚することが多い。視覚表象に社会の構造やイデオロギー作用の反映丁--しばしば歪んだそれ--を確認しようとする指向である。けれども、仮に反映を認めたにせよそのことを可能にするメカニズム自体はそうした研究では等閑視されてきた。本研究は、「見る/見える」ことそれ自体の社会的位置・構成を主題に据えた研究の必要性を主張し、それを「視覚の社会的再帰性」の研究として方向づけるとともに、その具体的作業において映像データベースを分析ツールとして活用することを提案した。
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