研究課題/領域番号 |
11610175
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
富永 茂樹 京都大学, 人文科学研究所, 助教授 (30145213)
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研究分担者 |
北垣 徹 京都大学, 人文科学研究所, 助手 (50283669)
阪上 孝 京都大学, 人文科学研究所, 教授 (70047166)
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キーワード | 人間の権利 / フランス革命 / 市民社会 / 主体 |
研究概要 |
本研究では1789年8月の「人間と市民の権利の宣言」の採択のさいに、国民議会の内外で出された宣言草案の100近いテクストと議会における議論の記録との解読を行った。草案はさまざまな立場からなされており、またその形式もさまざまであるが、本研究の主題である「市民」の概念にかんしては、さしあたり次の3点に問題を整理することができる。まず宣言の第1条で唱われるとおり、人間の自由と平等はどの草案においても共通して認識されているが、その自由を語る言説は常に自由にたいする「権威」の肯定を必要とし、また市民としての自立とともに他者への依存を並置しなければならない点で、ある種の矛盾をふくむものであった。次に市民の政治への関与にかんして、社会のなかで公的になされる議論、とりわけ代議制度が採用される場合の議会における議論は、いわゆる一般意志の形成過程として重要な意義をもつはずであったが、彼らの言説の多くにおいてはこの議論が意見の一致、合意の形成には到達しえないことがやがて明らかになる。最後にこの宣言から導き出される社会は自由で平等な個人を基本単位としており、先の2つの問題を克服するためにも必要不可欠な手段として、個人と全体社会を媒介する中間的集団の存在がほとんど認識されていない。中間集団はむしろ個人の自由を実現するうえで障碍となると考えられていたのだった(目標達成手段の欠如)。こうした自由を語る言説のふくむ論理的な矛盾に加えて、宣言の審議過程ではいくどとなく妥協がくり返され、最終的に審議は完成する以前に中断されることにより、「宣言」のなかの市民像は未完のままにとどまった。こうしてフランスの、さらには近代社会一般の政治文化には以後大きな問題が未解決のまま残されることになるのである。
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