逸脱の統合理論を構築するためには、(1)逸脱の定義論(2)逸脱の原因論(3)逸脱のコントロール論(4)逸脱の研究法の4分野の再検討を要する。本年度はこのうち逸脱の原因論に焦点を定めて新たなの理論を模索した。まず、逸脱原因論は犯罪学の古典派から現代の逸脱理論まで数多くあるが、それらは構造論・過程論・行為者論の三タイプにまとめられる。これら理論はいずれもそれだけでは統合理論としては不完全なものであるので、それに替わる理論として、「社会的世界」を中心概念とする視点を提起する。社会的世界は行為者が相互作用を行い特定の活動を構成する世界であるが、その世界の活動の可能性は資源・有意味シンボル・規範・文化的目標・社会的位置などによって条件づけられている。こうした一般的な概念から、逸脱が生起しやすい社会的世界とその変化の過程を特定化することが可能となる。その場合主眼は、これらに作用する普遍的な因果的要因を見いだすのではなくて、逸脱を可能にしている社会的世界の「ナラティブ」を構成し、それらの主要なパターンを明らかにすることにある。組織体逸脱の例でいえば、組織が関与する初期の逸脱のパターンは次のように仮定される。組織体の直面する問題状況→逸脱による問題解決の可能性判断→組織内・外部環境のコントロールの無効化→逸脱の実行→結果の検討→逸脱の組織戦略に組み入れ→逸脱の日常化。逸脱のタイプごとにこの種のパターンを見いだすことが、逸脱の原因論の体系化になる。
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