統合理論の構築課題のうち本年度は主に逸脱のコントロールに関する社会理論の検討を行った。逸脱のコントロールに関する論議は、コントロールの形式、コントロールの遂行様式、コントロールの有効性、コントロールと社会的環境の関係に整理される。本研究が準拠する「社会的世界論」の視点から、既存理論への批判的検討を通じて明らかにされた知見は以下の点である。 1.コントロールの形式は刑罰・補償・治療・和解に加えて保護・改善をあげることができる。人を対象とするものだけでなくて環境への働きかけや、さらに事後的な対応だけでなくて、事前のコントロールも重要である。 2.フォーマルな官僚制機関と日常の人間関係の中で行われるコントロールの遂行様式は同じではない。これまでの研究は前者の組織分析に偏っているが、日常生活でのコントロールを左右するのは、生活者相互の権力関係と信頼関係が重要な位置を占めている。 3.コントロールの有効性の論議はこれまで刑罰などの予防効果や矯正効果、あるいは都市改善計画の地域社会安定化への貢献度などの研究蓄積がある。重要な点はコントロールを切り離して考えるのではなくて、その連関において効果を捉えることである。フォーマルなコントロールは日常生活のコントロールに補完されて初めて効果を発揮できる。 4.時代や社会によって支配的なコントロールの形式が選択されるが、それを左右するのは逸脱によって脅かされる恐れのある人々の危機感と人権などの思想とのせめぎあいである。
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