東南アジアにおいては20世紀初頭にいたるまで、その小人口を背景に土地に対する価値付与が低く、家族レベルにおいては相続に際して、生産の手段である土地の均分が通常であった。またリーダーシップの領域においても、継承の原則が確立されない場合が多かった。他方、日本においては、かなり早い時期に生じた土地不足等のために、一子による相続が定着していった。リーダーシップの領域においては家族内の年長者、すなわち長男による相続が定式化した。このような対比を念頭において、資源と継承との関係を明らかにすることが本研究の目的である。 東南アジアおよび日本の地方支配者の家系継承に関する資料を家譜ないし系譜のかたちで集積したことが成果の一つであるが、研究目的に対する暫定的な分析結果を提示するために、東南アジアに関してはマレー半島のスルタンの継承(クランタン州、トレンガヌ州、パハン州、スランゴール州、ペラック州を対象とした)、日本に関して東日本および西日本の地方支配者の継承(南部氏、佐竹氏、島津氏、相良氏を対象とした)の詳細な分析を行なった。東南アジアと日本との大きな相違は、前者において兄弟による継承が後者におけるよりもより多いことであり、この相違点を中心に社会構造のあり方が区分されるという見通しが得られた。
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